pslaboが試したことの記録

はてなダイヤリーからはてなブログに引っ越してきました

この日記は現在実行中の減量記録を含む個人的なメモとして始めましたが、最近はコンピュータやガジェット、ハック、セキュリティネタのほうがメインになっております。

はてなダイヤリー時代はカテゴリ分けが適当だったのですが、これはそのうち直します。


「毒を以て毒を制す」療法

日経ビジネス 2003.3.8 66p より。
このページは東京女子医科大学付属青山自然医療研究所クリニック所長の川嶋氏の話を江木園貴さんという方がまとめた記事。

2000年1月に医師で構成された日本ホメオパシー医学会という組織が設立されているらしい。僕のイメージでは日本国内でのホメオパシーは民間療法のように医師があまり関わらないコミュニティの間で重視されているという感があったので、少々意外に思った。


ホメオパシーは、原料となる植物・動物・鉱物などの自然物質をアルコールで溶かし、蒸留水で10倍希釈した 1X, 100倍希釈した 1C というベースの溶液(レメディー)を作り、さらにそれを希釈したものを砂糖玉に染み込ませた粒を服用する。

この希釈回数はよく用いられるものだと30C (100倍希釈×30回) という希釈を行っているのだが、化学の世界で用いられる原子数の単位、アボガドロ定数 (1mol = 6.02×1023) と比べるとかなりトンデモナイ数値である。参考までに GNU bc という高機能な計算ソフトで比較してみよう。



$ bc
bc 1.06
Copyright 1991-1994, 1997, 1998, 2000 Free Software Foundation, Inc.
This is free software with ABSOLUTELY NO WARRANTY.
For details type `warranty'.
6.02*10^23
602000000000000000000000.00
100^30
1000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000

ほら、このとおり。100倍希釈×30回の溶液はアボガドロ定数をはるかに超えているんです。高校や大学で化学を学んだ方が見たら「アリエナイ」と言いそうな内容です。

化学に疎い人のためにおおざっぱに補足しておくと、アボガドロ定数(1mol) とは、炭素原子12グラムに含まれる原子の個数のこと。つまり、30C (100倍希釈×30回) の希釈を行った水溶液は、化学の世界では何も溶けていない単なる水と等しいハズ。

現代化学の考え方から言えば、これだけの希釈を行った水と、単なる水は等価であろう。従ってホメオパシーの効能はプラシーボ効果ではないか、という疑念が生じるわけだ。

しかし、実際にはプラシーボ効果の影響を受けないと思われる乳児や動物でも効能が確認されているという。

ここで現代科学で説明がつかないからといって、ホメオパシーやレメディを頭から否定するのは科学の考え方からいえば適切とはいえない。

そもそも科学(この場合は自然科学)とは目の前で起こっている事象に対して仮説を立て、精密な実験を積み重ねてそれを実証する学問であるから、現実に起こっている事象と理論が乖離しているならば、それは理論のほうが誤っているか、または事象の測定が誤っているかのどちらかである。

このような従来の医学と異なる分野に対して注目している医師らがいるということは基本的には良い傾向かもしれない。

なにしろ、ホメオパシーについて書かれたページには、「霊性」などの科学的にもよく判らない用語や、科学者の間でも意見が分かれている「クラスター」などの用語を組み合わせて書かれているページがよく目につく。しかしこういう用語を用いることは科学的なアプローチで考える方にはどうしても受け入れられにくい。

ホメオパシーが本当に有効なものであるならば、やはり科学的な考え方で説明がつくほうが良いに決まっている。ホメオパシーに肯定的な方からは「科学は万能じゃない」という声が聞こえてきそうだが、それはそのとおり。だからこそ科学者は真理を追究するために仮説を立てて精密な実験を行い、それを実証するのだから。

参考までに2つのアドレスを紹介。一つはちょっとアレゲ系なウェブマガジン Hotwired の記事「ホメオパシー療法が極微量の投薬で有効な理由」で、水のクラスターという話が出てきます。もうひとつは山形大学理学部物質生命化学科助教授の天羽氏の「水のクラスター −伝搬する誤解−」というページ。

http://www.hotwired.co.jp/news/news/technology/story/3887.html
http://atom11.phys.ocha.ac.jp/water/water_cluster.html

ついでなので、同じく天羽氏の「水商売ウォッチング」というページも紹介。

http://atom11.phys.ocha.ac.jp/wwatch/intro.html